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大人の少女漫画好きのマンガ評

理想の学校、理想の恋、理想の友情、全てがつまった青春漫画の金字塔『天使なんかじゃない』(矢沢あい)

  • 天使なんかじゃない 1 (りぼんマスコットコミックス (610))
  • 天使なんかじゃない 2 (りぼんマスコットコミックス (628))
  • 天使なんかじゃない 3 (りぼんマスコットコミックス (655))
  • 天使なんかじゃない 4 (りぼんマスコットコミックス (680))
  • 天使なんかじゃない 5 (りぼんマスコットコミックス (709))
  • 天使なんかじゃない 6 (りぼんマスコットコミックス (738))
  • 天使なんかじゃない 7 (りぼんマスコットコミックス (758))
  • 天使なんかじゃない 8 (りぼんマスコットコミックス (785))

少女漫画誌も対象年齢に応じて大人の恋愛中心になってくるのですが、この年になると逆にピュアな話が読みたくなるんですよね。心が汚れてきているからか。

そんな枯れた心にぴったりな、純度100%・青春漫画の金字塔と言われる作品がありまして。
りぼんっこにとって偉大なる矢沢先生。「NANA」や「パラダイスキス」等最近の作品を見ると「ピュア?どこが?」てな感じですが、この「天ない」こそアラサー女性の魂の一冊なのです。

矢沢あいは80年代からりぼんを支えていた作家ですが、前作「マリンブルーの風に抱かれて」は、どちらからというとシリアス路線。その作風を変え満を持して始まった「天ない」は、連載当初からヒットを予感させる作りこみで、一話目にして読者の期待度も大幅アップ。実際に、作者の大出世作となっただけでなく、少女漫画界をも代表する作品となりました。

絵柄が連載中にどんどんファッショナブルになっていくのも見どころのひとつ。20年前の作品とは思えません。


何度読んでもさわやか、何度読んでも切ない

「天使なんかじゃない」は、ファンタジーでもなく特別な恋の障害があるわけでもなくごくごく普通の少年少女の学園生活を描いています。でも、その学園生活が全然違う。きらきらしているんです、まぶしいくらい。

主人公たちが通う学校は、一年生だけの新設高校。

この一年生だけの新設高校という設定が「こんな学園生活送りたい!うらやましすぎる!」と心の底から憧れたらしめる本作の魅力の大きな要因となっています。
先輩はひとりもいなく、新入生だけで過ごせる解放感。学校中が和気あいあい。
ヒロインの翠は、生徒会役員に立候補。もちろん、他の生徒会メンバーも全て一年生です。
おふざけがすぎる企画行事も、一年生だけだからこそできる特権。

生徒会役員に立候補した翠は、見事副会長の座をゲット。
そして翠が密かに片思いしていた晃も、生徒会長に。
他にも、優等生の麻宮裕子(通称マミリン)、優しいモテ男の滝川、気のいいブン太らが生徒会の面子に。この5人を中心に、新しい学校生活が始まります。

翠の片思いの相手、晃はリーゼントの不良っぽい少年(不良ではない)
一見こわもてで口も悪いが、根はやさしい。なんといっても、翠が恋に落ちる瞬間は、晃が捨て猫に傘を貸してあげる優しさを見てしまったという古き良きベタシチュエーションです。

会長と副会長。一気に距離が縮まり晃との仲もすっかりくだけた感じになって喜ぶ翠ですが、実は晃にはずっと想い続けている人がいることを知ります。

そう、この作品は、ヒロインの「完全片思い」からはじまるのです。


負けるもんか 負けるもんか この恋を手放してたまるもんか

翠というキャラクターはまっすぐで明るくて、笑顔が魅力的。
翠が朝登校すると、みんなが彼女の周りに寄っていって、一瞬で空気を変えてしまう。
選挙の時には、ステージで転んで全校生徒の前でパンツを見せてしまうドジをさらすが、それを逆にポスターのキャラクターにしてしまうくらいの明るさの持ち主。現実にいたらすぐに恋人ができるタイプだし、みんなが翠と友人になりたいと思う。

そんな充実している翠が晃の心を手に入れることができずに、それでも体当たりでぶつかっていく。

一方、同じ生徒会の三つあみ真面目少女マミリンは、優しい滝川のことが密かに好き。
しかし、マミリンの恋も片思い。滝川にはずっと付き合っている彼女がいるのだ。マミリンは翠とは対照的に全く素直になることができずに、つい反対の態度ばかりとってしまう。この思春期マミリンのウブさが切ない。

「NANA」になくて「天ない」にあるのが、女の子の片思いが生み出すピュアさでないだろうか。

切なくても可能性が低くても、健気にがんばる姿。これこそが本作品が今も昔も少女に愛され続けている理由のひとつだと思います。

03
矢沢あい『天使なんかじゃない』(集英社)より

好きな人には好かれたいと思うわよ せめて・・・ 選ばれなくてもいいから

片思いと思っているのは自分だけ(実は両想い)が多い少女漫画の中で、「天ない」ヒロイン達は完全に片思いにハマっています。翠の好きな晃の心にはずっと想い続けている年上の女性がいて、マミリンの好きな滝川は大切にしている彼女がいる。

現実はこれが普通なんだよね。好きな人が自分を好きなことって、そうそうない。
16年生きてきて、自分と同じように相手にもそれまで歩んできた過去や経験があって、今そこにいるのだから。

だけど彼女たちは彼女たちなりに、悩んで泣いて、それでもあきらめない。

全力で相手にぶつかっていって、そして恋は奇跡を起こす。

2人の恋愛の結果は、ご都合主義でもなんでもない。2人ががんばった結果なんです。

「天使なんかじゃない」には、理想の青春、理想の恋、理想の友情、全てがつまっている。まさにこれぞ少女漫画のお手本です。

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