際立つ2人のヒロイン「ナナ」の女の人生を描く大人気作。矢沢あいの集大成か『NANA』(矢沢あい)
ねえナナ、私たちの出会いを覚えてる?
1999年に連載が始まりちょっとした社会現象にもなった矢沢あいの大ヒット漫画「NANA」は、同じ”ナナ”という名前を持つ2人の少女の恋愛を中心とした青春群像劇です。
「同い年の女が同じ電車で同じ時刻に上京する」
北海道から東京へと向かう列車で偶然出会った、同じ名前を持つ2人の少女。東京で待つ彼氏に会うために上京する小松奈々と、音楽で成功するために上京する大崎ナナ。偶然東京でも再会した2人は、ひょんなことから一緒に住み始める。
上京列車での出会いという、当時最先端を行っていたファッショナブルな作風とは正反対のちょっとレトロな出会い方。そんなシーンから、NANAは始まります。
NANAのストーリー自体はしごくシンプルで、狭いサークル内で次々に新キャラが出てきてカップリングが変わるのを繰り返していく、ビバヒル現象といったら古い海外ドラマ好きの方にはわかっていただけるだろうか。
先が気になって目が離せないその刺激の多さが麻薬的でもあり、ベテランの魅せ技というべきか一歩抜きん出たエンターテイメント性はさすが矢沢あい。どんなに入り乱れていてもキャラクター一人一人を丁寧に描ききろうとする手腕は見事の一言。でももちろん単純にキャラの絡み方が面白いだけではNANAは語れません。この漫画の一番の大きな魅力は、やはり2人のメインヒロインです。
あたしは誰に恋をしていても あたしにとってのヒーローはナナだけだよ
小松奈々(通称ハチ)と大崎ナナは非常に対照的な女子。恋愛体質で惚れっぽく次々と彼氏が代わるハチと、一途に恋人を思い続けるナナ。仕事が続かなくとりたてた才能もないハチと、ミュージシャンとして大成していくナナ。
一見ハチの方がどうしようもない女なのですが、彼女の武器は明るい性格と愛嬌、そしてなにより恐ろしいまでの神経の図太さ。ハチはこの黄金の武器で、女子から見て羨ましすぎるポジションを手に入れていきます。
どこにでもいる平凡な女性の代表格に見えるハチだけど、彼女はその行動力というか「たくましさ」が人並み以上に強い子。自分の幸せに対して恐ろしく貪欲で、並の人なら躊躇してしまうようなケースでも常に自分の気持ちに正直に行動していく。例えば妊娠事件でタクミとノブの間で揺れてたときも「私にはそんな資格はない、両方とも別れて一人で生きる」なんて選択肢はハチには全くないのが笑えます。
ミーハーで自分の欲求に忠実で、先のことは考えず、幸せを常に追い求めるハッピーマニア。周りの人を振り回し、しかしながら裏表は全くなく、自分の周りにいる人に対しては絶対的な信頼を寄せてくれる、とても純粋な女性。それがハチの魅力。
女の武器の使い方を誰よりも判っているハチ。その天然の肝の強さが人生幸せに生きる秘訣なのかもしれない。ここまで開き直れればさぞかし充実した人生でしょう。(ちなみにハチは女友達にも徹底して自分を庇護してくれる頼りがいのある友達ばかりを選んでいる。全く清清しい)
男がいなければ生きていけない恋愛体質だけど、図太いハチ。一方で夢を追い自立して生きているように見えるけど、レン(男)という拠り所を失ったとたんに不安定になるナナ。そう、本当に脆いのはナナのような女だ。
ナナとハチの関係は一般的な女友達よりちょっと複雑で一見ハチがナナを尊敬している体だけど、実際にはナナの方が異常なほどにハチに執着しているのがわかります。2人の間には、お互い自分が持っていない、決して手に入れることができないモノへの憧れがあり、通常この足りないモノというのは男女間で補ったりするのですが、NANAは女友達でこれを補おうとしている。ただ、女友達より男を優先するハチはいつか自分のものを去ってしまうだろうという不安をナナは抱えていて、だんだんとハチの強さとナナの弱さが浮き彫りになっていきます。こういう深みのある関係性がたまらない。
ナナもハチも判子型のような性格ではなく、女の長所と短所を凝縮して煮詰めてあぶりだしたような、まるで女の業を背負っているかのような見事に際立ったヒロインたちなのです。
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本作は、最初こそオシャレな東京上京物語でしたが、未来のハチが語りかける物悲しいモノローグがこれから待ち構えているだろうナナの悲劇を予感させていきます。こうした作りもさすがベテラン、全く違和感なく作品をドラマチックに盛り立てています。
「NANA」はあまりにも有名になってしまった感があるけど、矢沢あいは紛れもなく実力でここまで売れてきた漫画家。その集大成である「NANA」がいったいどんなラストを迎えるのか楽しみでなりません。