人の魂を食らう美しい鬼の、哀しくも美しいラブサスペンス『蒼の封印』(篠原千絵)
少女漫画のサスペンス分野にて活躍し続ける、篠原千絵。彼女の作品はどれも現実離れしているのに感情移入がしやすく、特にストーリーのセンスと人間ドラマには定評があります。あとちょっとエロい。
今回紹介する「蒼の封印」は、復活を望む人食い鬼の一門とそれを阻止しようとする人間達のサスペンスドラマ。篠原千絵の長所が満載の作品でもあります。
ヒロイン蒼子は、見た目の美しい女子高生。彼女が新しい学校に転校してきたところから話は始まる。
転校早々不良のボス香椎に目をつけられ、無理やり襲われる蒼子。途中で意識がなくなり、気づくと香椎の姿は消えていて、なぜか彼の服だけが取り残されていた。
翌日、香椎が学校に現れるが、皆が香椎と呼ぶ男は全くの別人。男は西家の西園寺彬と名乗り、蒼子は鬼門復活を目指す東家の“蒼龍”…人食い鬼の女王だと言われる。そして彬はそれを倒す者だと。
普通のヒロインが、実は鬼の女王だった?
第一話から伏線が張りまくりのドラマチックな展開で、どんどん勢いを増してストーリーは進んでいきます。
蒼子自身は、自分のことを普通の人間だと信じて疑っていない。自分には家族も友人もいて、過去もちゃんとあって、普通の人間として生きてきたからだ。
しかし、やがて彼女は真実を知ることになります。
彼女は、本物の人間の蒼子を食って自分が蒼子として入れ替わっていただけ。蒼子の記憶まで食べたので、自分が蒼子だと疑ってないだけだと。
自分の記憶だと思っていたものが全く他人のもので、しかも自分は人間じゃなかった。衝撃の事実その1。
更に、ずっと一緒だった家族も全部偽の記憶。そして(記憶上では)生まれてこの方実の兄だと思っていた男は、蒼子の昔の夫であり自分のことをずっと妻として愛していたのだという。衝撃の事実その2。
とまあ、ここまでの導入部がとても良く出来ているので、読んで早々ぐっと引き込まれます。まさにつかみはバッチリ。
結局蒼子は人間の記憶と性格を持ったままなので、人食い鬼の復活を望むことはなく、自分の真実を知るためにと彬と行動を共にすることになります。
一方の彬は最初こそ蒼子を殺そうとするものの、覚醒した蒼子の美しさ(蒼龍は大変美しい生き物だそう)に心を奪われ、やがて蒼子を深く愛するように。
そして「蒼龍」は消えてひとりの娘が生まれる
鬼の女王である蒼子は人間を食い殺す非常に強力な力を持っていますが、実は彼女の鬼の力をなくす方法っていうのがあります。自分より強い西家の男と交わる・・・ようするにHすれば蒼子は普通の少女に戻れるらしい。なんじゃそりゃって設定ですが、少コミなんで。
彬の一門は、蒼龍と鬼門を滅ぼすために存在している一族。そして彬は、蒼龍を倒せる強さを持つという唯一の男。なので、彬が彼女と交われば蒼子の鬼の力はなくなるんです。
鬼の力さえなくなれば蒼子は普通の人間になる。なわけで、彬は蒼子に惚れているのもあって必死で交わろうとするのですが、彼女は鬼門を自分の鬼の力で内側から壊すことを決意し、おあずけをくらうことになります。哀れ。むしろ打ち消し能力があるせいで、逆に惚れた女に指一本触れられないジレンマに…。
それで以下ネタバレですが、まあいろいろあって、無事鬼を封印して、蒼子の役目がようやく終わりを告げます。で、感動のラストになるはずなんですが、いきなりヤってます。
「じゃあ、今晩はお楽しみね」とかではなくて、もう、すぐ。本当に終わって、すぐ。
ラストの対決は確か地下だったのですが、地上にあがってくるなり速攻です。日中の外でです。そんなに我慢できなかったのか、彬よ。
長く続いた連載最後のコマがそのH突入シーンにて終了となり、そのせいでなんだかこの作品自体の目的が鬼の封印ではなく、彬の個人的な目的の達成でしかなかったような気がする最終話でした。