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5つ子のスーパーアイドルとその姉が繰り広げる、完全無欠のホームコメディ『はじめちゃんが一番!』(渡辺多恵子)

  • はじめちゃんが一番! (1) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (番外編) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (3) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (4) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (5) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (6) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (7) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (8) (小学館文庫)
  • はじめちゃんが一番! (9) (小学館文庫)

「はじめちゃんが一番!」はアイドルとなった5つ子とその付き人となった姉はじめの、芸能界を舞台としたホームコメディだ。
作者の渡辺多恵子がジャ○-ズの○GENJIが大好きで描き上げたというという本作(ちなみにその後新選組にハマり「風光る」が出来た)ミーハー魂がここまでクオリティの高い漫画を生み出せることにまず驚くし、才能ってつくづく恐ろしい。それくらい渡辺多恵子の漫画は、完成度が高い。

「はじめちゃんが一番!」の主人公・はじめちゃん。彼女は少女漫画のヒロインながらあまりにもひどい描き方をされており、もし蝶よ花咲く世界を夢見てコミックを開いた少女がいたなら、少なからず衝撃を受けたはずです。剛毛の三つ編み、そばかす、ファッションセンスはゼロ。性格は良く言えば「しっかり者」、その実はスーパー守銭奴で、女子力は低いけど生活力は人並み以上。惚れっぽくかっこいい男にはすぐ惚れてしまう猪突猛進タイプ。そして興奮すると鼻血を吹く…。彼女が可愛らしく描かれるのは、コミックスの表紙だけです。

一方で、はじめちゃんの華のなさを覆すかのように、周りの男達はよりどりみどりのいい男達ばかり。しかしヒロインの存在感が強すぎる為、美形が溢れて絵で魅せる漫画とかそういう感じではまーったくない。(そもそもそういうタイプの作風じゃない)

この漫画はあくまで家族や職場の人間関係を描いた「人間ドラマ」が中心です。

ちなみにはじめちゃんがモテモテとかそういうのも一切ない。この辺の徹底ぶりが好き。


はじめちゃんが一番なんだ!

はじめちゃんが前述したような「しっかり者」になった理由は、5つ子の弟が生まれたことによります。

まだまだ甘えたいざかりの幼少期に、突然生まれた5人の悪魔たち(はじめ談)。養育費のために働く両親を支え、実質5人の弟の面倒ははじめがみることに。後にアイドルになる程の容姿に生まれた弟たちを周りは猫かわいがり状態。大人はみんな「はじめちゃんはしっかりしていて偉いわね」と頭を撫でてくれる一方で、目は5つ子ばかりを追っている。

そんな幼少期を経て思春期へと突入したはじめちゃんは、岡野家の家計を支える長女として、人一倍金には厳しく弟にも厳しい、「可憐」「ナイーブ」といった言葉とは無縁の、鋼の心臓を持つ少女と育ったのです。

でも弟たちは、自分らを育てあげてくれた姉のはじめちゃんが大好き。

5つ子たちはアイドル事務所のスカウトを受け、A.A.O(エイエイオー)というグループ名でデビューする。その理由は、目立ちたいから・有名になりたいから、ではなく、はじめちゃんを大学に行かせる費用を稼ぎたいという何とも健気な理由。

5つ子の付き人となり、巣立っていく弟たちを見て寂しさも覚えるはじめちゃん。でも、弟たちにとっては、いつだって「はじめちゃんが一番」。そんな姉弟の強いきずなが、このタイトルに現れているのです。

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岡野家の5つ子。右から、あつき・かずや・さとし・たくみ・なおと
渡辺多恵子『はじめちゃんが一番!』(小学館)1巻より

クール・アダルト・パーフェクト

そんな溢れんばかりの「家族愛」を描いた本作ですが、少女漫画のお約束の「恋愛」方面はというと。A.A.Oの先輩でWE(ウィ)という人気No.1のデュオが出てきます。和田瑞希江藤亮。5つ子の良い兄貴分。カッコよく好青年な瑞希にはじめちゃんは絶賛片思い中。ただし、これはあくまで表面的な部分。

瑞希の隣にいつも当然のようにいる(2人組だから当たり前なのだが…)江藤亮。はじめにとっては自分の恋の最大の障害物。この亮、最初はちょっと変わった人だったのですが話が進むにつれどんどん奇人・変人・宇宙人となっていく、一風変わった人物。

江藤亮はアイドルなのに決してファンに媚びない、むしろ誰にも媚びずに生きている。複雑な家庭環境のせいで、周りと一定の距離を保っている状態。ただし、瑞希は別格で瑞希さえいればいいという感じ。悪気はない発言ではじめちゃんを傷つけることもあるが、事務所の関係もありはじめちゃんには心を開くようになってくる。
いくら性格に問題があっても見た目は誰もが憧れるアイドルで、しかも本質は人一倍純粋な天然男子なわけだから、普段は毛嫌いしているはじめちゃんでもぐらっとくるわけで。

誰にもなつかない猫が自分には懐いてくれるような、例えようのない優越感。これは萌える。

ちなみに、決して高飛車な俺様アイドルキャラとかじゃないのがポイント。そんな安っぽい男じゃないのだ、江藤亮は。

この亮とはじめちゃんがどう進展していくか…とドキドキするものの、あまりにも亮が不思議ちゃんすぎる上にはじめちゃんはギャグ要員すぎるので、これはこのまま終わりまでいくのか?と思わされたりもしますが、いちおうちゃんと最後はドラマチックに魅せてくれるのでご安心を。

キャラクターに血が通っているという表現があるけど、「はじめちゃんが一番!」は本当にそんな感じで違和感がない。かっこいいだけで中身がないという男は一人もいないと断言できる漫画なのです。

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