読者に向けた優しさにあふれた大ヒット魔法少女漫画 『姫ちゃんのリボン』(水沢めぐみ)
「姫ちゃんのリボン」は、女の子が大好きな魔法少女をヒロインにした、作者・水沢めぐみの代表作。少女のあこがれの世界が出だしからふんだんにつまっている本作は、今でも根強い固定ファンを持っています。
ごくごく普通の日本の中学生・姫子の前に、ある日自分にそっくりの顔をした少女が現れる。彼女は魔法の国から来たお姫様エリカ、修業として自分を一年間観察させる代わりに魔法のりぼんをくれるというのだ。りぼんをつけて魔法の呪文を唱えたら、なんと別人に大変身。幼い頃から一緒のぬいぐるみ・ポコ太と会話もできるようになり、姫ちゃんの一風変わった青春生活が始まる。
サリーちゃんアッコちゃん、魔女っ娘メグちゃんにミンキーモモ…アニメで大活躍していた魔法少女たち。彼女たちは多くの少女のあこがれの存在でした。そして「姫ちゃんのリボン」も当時たくさんの少女を魅了しました。姫ちゃんの世界は夢と幸せでいっぱいでした。
アニメ化もされたため余計に魔女っ娘もののイメージが強いけれど、本作はあくまで「少女漫画」らしさに乗っ取ったハートフルな学園コメディになっています。これは水沢めぐみのふんわりとした作風による功績が大きい。
魔法のリボンで変身!「パラレル パラレル ○○になーれ」
変身リボンを受け取った姫ちゃんが初めて変身するのは、実の姉である愛子お姉ちゃん。
お転婆な姫ちゃんにとって、清楚で優しく女らしい愛子お姉ちゃんは、あこがれの女性だった。「あなたがなりたいもの」と言われた姫ちゃんは、その時自分が心からなりたいと思っていた愛子お姉ちゃんに変身する。この姫ちゃんの純粋な願望が、なんとも心ニクイじゃありませんか。
女の子はいつでも変身願望を持っているもの。おとなしい子は明るい子に、ガサツな子は女らしい子に。30過ぎた女でさえもっと変わりたいと思っているのだから、姫ちゃんが愛子お姉ちゃんになりたいと思う気持ちはものすごく共感できます。この素直な乙女心を忘れなければ、姫ちゃんはお姉ちゃんよりいい女になるに違いない。姫ちゃんのリボンには、こんな少女漫画らしいエピソードが満載です。
連載当時は読者に圧倒的人気だった本作ですが、りぼんの低年齢層化を牽引した戦犯だという声もあります。確かにこの時期からりぼんの対象年齢は下がってきたように思えるのは事実ですが、それでもこの意見には悲しい気持ちになってしまいます。水沢めぐみは昔からりぼんで素敵な作品を描き続けていたし、その温かみのある空気は「姫ちゃんのリボン」にも大きく引き継がれています。少女の成長を見守る優しい視線、魔法少女ものだとしてもその本質は変わりません。
そもそも本作は、魔法少女が魔法を使っておしまいの話ではありません。
たまにはリボンの力で失敗しても、そこからちゃんと反省して前向きに成長していく。姫ちゃんが築き上げていく友情や大地との間に育った恋心、これも決して魔法のリボンの力のおかげではなく、姫ちゃん自身の行動によるものです。彼女は変身能力で他人になろうとも、自分自身を見失ったりしない。
そして最後のポコ太やエリカとの別れのエピソード。自分が悲しくても相手の幸せを考えてあげられる、頭の上のトレードマークがなくなった姫ちゃんは一皮むけた少女の姿を私たち読者に見せてくれました。
知名度の高さもあって「魔法少女」アニメの印象が強いが、原作の作風はあくまで読者の少女たちに向けた優しさにあふれています。
萌えアニメのようなあざとさがない、真摯な少女漫画魂の詰まった作品です。