エンターテナー清水玲子の壮大な世界観、語り継がれる御伽草紙ファンタジー 『輝夜姫 (清水玲子)』
週刊連載で破竹の勢いで進んでいく少年漫画や永遠に連載するんじゃないかと思われる作品もある青年漫画などと違って、少女漫画での長期連載というのは割合的に少ない。少女漫画というのは少女の感情描写や恋愛の機微なんてのをメインに描くのがほとんどなので、そんな局所的な心理描写をだらだらとやっていても締りがないだけなのです。一昔前は2人の恋が結ばれたら、キスしてはいハッピーエンド!終了!的な流れが非常に多かった。
でも逆に恋愛心理云々よりストーリー自体に魅力のある漫画はしっかりと巻数を伸ばしています。「ガラスの仮面」「BASARA」「天は赤い河のほとり」等々。
そういうわけで、この「輝夜姫」。「かぐやひめ」と読みます。
タイトル通り、日本最古の御伽噺といわれる「かぐや姫」をモチーフにしたストーリーで、1993年から約12年間「LaLa」で連載していた全27巻の大作です。
話は、ある小さな島のかぐや姫の伝説から始まる。
幼い頃の記憶がなく、岡田家に養女に貰われたヒロイン岡田晶。
晶と同い年の岡田家の一人娘真由は、晶に異常なまでの執着を見せ、養母の祥子は晶に性的な関係を強要。彼女は岡田家での暮らしに限界を感じていた。
そんなときに現れた謎の少年、由と碧。2人は晶を岡田家から連れ出し、謎の島「神淵島」へと向かおうとする。
神淵島の伝説・・・ここで育った子供たちは島を出た後も16歳を迎える前に死んでしまう。神淵島にとらわれたかぐや姫が、イケニエとして子供達を殺しにくるからだ。
晶と由と碧は「神淵島」にあった孤児施設で一緒に育った孤児仲間だった。
そして神淵島には、3人の他にも同じ孤児院で育ったかつての幼馴染達が集まっていた―。
一巻のしょっぱなからヒロインと養母の倒錯した関係の描写。養父に性的虐待を受けている…ではなく、本作では養母が養女に対しての性的な関係の強要である。ちなみになぜ養父ではなく養母なのかというのは、かなり巻数が進んだ後に明かされます。
一見ドロドロメロドラマかと思いきや、ヒロイン晶が岡田家を出た瞬間から、ストーリーはトップスピードに乗って動き出していきます。
御伽噺とサイエンスを融合させた、清水玲子の傑作。設定が非常に複雑で凝っているので、とにかく先が気になって仕方がない。
同じ白泉社のSFである「ぼくの地球を守って」のようなオタクくささもなく(ぼく地球もおもしろいですが)、作者の卓越した画力センスもあり万人に進められる作品でもあります。
少しだけネタバレをしてしまうと、孤児院で育った子供たちの正体は、実は世界各国の要人達が自分たちの遺伝子で作ったクローン人間、通称ドナー。
ヒロインを含め彼らは皆、要人達が生命の危機にあった時にその体のパーツを差し出すために「作られた」子供たちです。
このドナー編のあたりの勢いや完成度が素晴らしい。ストーリーテラーの本領発揮といった構成力です。ここで本作にハマってずるずると最後まで読み続けた人も多かったのではないでしょうか。なんてちょっと意地悪な言い方になってしまいますが、実際最後はどんどんスケールが大きくなっていって冗長になりすぎな感は否めません。
御伽噺風味のミステリーと思いきや医学サイエンスな話に進み、最終的にはSF仕立てに月の石を集めて宇宙へ!
いやいや風呂敷広げすぎでしょう先生と言いたいところだが、全て目をつぶっても許せちゃうのがこの作者の画力センスの高さのせいでしょうか。連載中にもどんどん画力はあがっていき、特に美男美女の描き方が絵画のようにため息が出る様な美しさ。
特に「輝夜姫」の場合は、最初は色気の足りないヒロインがどんどん艶っぽくなっていく様がたまらない。(ただし後半は晶のプロモーションビデオかってくらいくどい感はある)
晶は、凛とした美しさを持つ中性的な魅力を持つ美女。何人もの地上の男を虜にした天女「かぐや姫」のごとく、それはそれは美しい。おかげさまで彼女は男女問わず大人気です、病的なほどに。
「輝夜姫」はストーリー以外にもたくさんいる登場キャラの誰に惹かれるかという漫画的な読み方もできる…のですが残念なことに、思考が常人と比べて明らかにおかしいキャラクターが多々見られます。
ある者は女同士の束縛意識、ある者は家来としての忠誠心、またある者は幼少からの依存心…と理由は人によって違えど、特定の他者に対する執着心が度を超えて強い。メンヘラ大集合です。
少し刺激的な漫画を読みたい女子は、ぜひ手に取ってみては。もちろん胸キュン要素もしっかりあるので、損はしないこと間違いなしです。