怒涛の鬱展開・豹に変身する少女の哀しき宿命 『闇のパープル・アイ』(篠原千絵)
少コミの看板作家でもあったミステリー&ホラーの名手・篠原千絵。先が読めない展開の早さで一気に読ませ、読者をストーリーにぐいぐい引き込む力量を持った漫画家です。彼女の作品には、日常の中の恋のときめき、なんてものはない。あるのは、日常の中のサスペンス。
篠原作品はどれも、ごく普通の日常がある日突然前触れもなく壊れてしまう悲劇で幕を開けます。そしてもう二度と日常へとは戻ることはできない絶望。幸せだった過去を思い出して嘆く主人公の苦悩が、読者の涙をそそります。
「闇のパープルアイ」のヒロイン倫子は、そんな篠原ヒロイン達の中でも不幸度の高さで頭ひとつ出ています。そう、この漫画、少女漫画屈指の鬱漫画でもあるのです。
実は、倫子は人間でなく、豹に変身できる血を持つ一族の生まれだった。というのが、本作の設定。
自分が人間でなく別の生命体だったらというのは、誰でも一度は妄想したことがあるのではないでしょうか。しかしこの作品を読んでどうぞ自分が平凡な人間なことを心から喜んでください。それくらいヒロインには、たたみ掛けるように最後まで悲劇がつきまとい、そしてそれは救われることはありません。
尾崎倫子はどこにでもいる普通の女子高生だったが、ある日生物学教師の曽根原薫子に「あなたは人間ではない。獣に変身する変身人間だ。」と言われ、無理やり拉致監禁、実験材料にされてしまう。必死で曽根原の元から逃げ出そうとする倫子の体に異変が…。
実際倫子は確かに変身人間なのですが、この薫子という女さえいなければ「なんかちょっと変な能力があるけど、私しあわせ」って暮らせたはず。
それが、拉致監禁の上電気ショック諸々で痛めつけられ、妹は目の前で殺され、好きな男とも一緒にいることは叶わず、強姦されたあげくに子供を孕み、その子も産んですぐに…と昼ドラもびっくりの不幸てんこ盛り。主人公好きの人には、かなりつらい展開が続きます。
ただ、唯一、想いを寄せていた幼馴染の慎ちゃんが獣の本性を知っても命をかけて自分のことを守ってくれる、ずっと自分を愛してくれるというのは、本当に女冥利に尽きる(篠原千絵はこの手の話が上手い!)まあ、倫子はその好きな男と結ばれず、別の男の子供を産むはめになるんですが。
第一部が倫子編、そして第二部は子供の麻衣編となり、変身人間の一族の組織が出てきたりと話は大きく展開。
二部は麻衣がヒロインながら、慎ちゃんの倫子回想シーンが頻繁に挿入されます。こんな風にずっと一途に想ってもらえたら、女としては本望だろう。でも願わくば幸せに暮らす倫子と慎ちゃんをずっと見ていたかったと思わずにはいられません。
ひとりの少女とその家族の悲劇を描いた本作は、雛形あきこ主演でドラマ化もされた人気作でもあります。
闇のパープル・アイ(篠原千絵)
連載雑誌:少女コミック(小学館) 発表年:1984年
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