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こんなイチャラブコメを待っていた!ギャグもスケートも切れ味抜群、福島弁ほっこりラブ『銀盤騎士』(小川彌生)

小川彌生先生はまたやってくれました。「きみはペット」にハマってから十数年、最近ではここっぺに萌えすぎてもうたまりません!単行本が待ちきれなくて、とうとうKiss本誌にまで手を出してしまいました。

その漫画のタイトルは「銀盤騎士」。カタカナの読み方があるのかと思ってたら、そのまんま「ぎんばんきし」。わかるようなわからないようなタイトルの上に、表紙絵はイケメンがひとりでかっこつけているという…もしこの微妙に手に取りづらい表紙のせいで読んでない人がいるとすればもったいない!ここっぺ(表紙のイケメン)は表紙の数10倍かっこいいし、「銀盤騎士」は本当に面白い漫画なのです。見落とさないで!

フィギアスケート大ファンである小川氏が元新聞記者の腕を生かした綿密な取材を経て、アイスダンスをテーマにした前作の「キス&ネバークライ」が生まれ、その後まだまだ書き足りなかったのかそれともソチオリンピックの男子シングル金メダルを予想していたのか、「キスネバ」の後に書かれたのがこの作品。表紙でまるわかりですが、男子フィギュアのお話です。

よっぽどスケートが好きなんだな…とその熱い情熱を隠すことなくぶつけられています。

まずなにより絵が上手い!丁寧に描かれたポーズの美しさにはほれぼれします。フィギュア選手が持つ優雅さとカッコ良さが見事に表現されていてうっとり。

また、スケートの試合のシステムとか選手の調整などもわかりやすく書いているので、スケートのことがよくわからない人間でもストレスなく読める。唯一リアルさがないのは、トップアスリートで日本のエースが、恋愛一つで調子が左右されてしまうっつうことなんだが、まあ漫画なのでご勘弁を。

2作続くスケートものですが、前作との大きな違いは、「キスネバ」が性的虐待やら殺人事件やらで全体的にシリアスで重苦しい話だったのに対して、銀盤騎士は完全なるラブコメ。福島弁のいなかっぺラブがたまらない。ほのぼのカップル大賞を差し上げたい。

表紙で星を背負ってキメキメでかっこつけている銀盤の王子が雉子波心(きじなみ・こころ)。長身でカッコいいのに、福島出身のいなかっぺで、アスリートに必須なメンタルが致命的に弱いヘタレ王子。
同じ福島出身の幼馴染・千登勢がかけてくれるアニメの魔法の呪文によって実力を発揮でき、スケートリンクの上では騎士になれるというお話。

イケメンでファンから王子と呼ばれる心は、残念ながら生粋のオタク。アニメヒロインのララのグッズを集めているばかりか、自分の書いたララのイラストをピクチブ(笑)にアップしたり、千登勢にプレゼントしてあげたりするキモオタぶり。
なかでも笑えるのがはじめてここっぺの部屋に誘われてドキドキして行った時の千登勢のリアクションです。

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オタク部屋をみて愕然とする千登勢
小川彌生『銀盤騎士』1巻(講談社)より

お互い想い合っているのに、なかなか進展しない2人。ラブコメなので恋愛の心理描写は多いのだけど、こっちは早く2人のイチャイチャラブが見たいのに、心はトップアスリートなのでしょっちゅう海外に行ってしまい、なかなか肝心のラブシーンが少なくてじれったい!もどかしい!

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マスク越しのキス!たまにあるイチャラブが良い
小川彌生『銀盤騎士』1巻(講談社)より

一時期は思いが通じ合う心と千登勢ですが、二人の状況はすぐに暗雲が立ち込め始める。
千登勢とスケートしか知らない純粋培養人間(しかもボンボン)な心と、社会に出てそれなりに人付き合いに揉まれて生きてきた千登勢とだったら、そりゃいろいろ間違っちゃうよなあ。二人の微妙なすれ違いが切ない。

心は純粋に千登勢が好きだけど、千登勢は周りの目がどうしても気になる。

心がヘタレを返上して、千登勢がコンプレックスから成長した時が、2人の本当のタイミング。今はまだ早いだけ。

スケートのライバルたちとの戦いも見どころ満載だし、脇役たちもとっても魅力的なメンツが揃ってます。心のコーチとしてキスネバの晶、ドミが再登場する等、過去作品の登場人物たちが引き続き出てくるのはファンとしては美味しすぎる。

大人でも読めるラブコメを探している人には、ぜひ読んでいただきたい。絵の上手さと話作りの面白さが高い水準で安定していて、かつお気軽に読めるという、とても貴重な作品だと思います。

銀盤騎士(小川彌生)

連載雑誌:Kiss(講談社) 発表年:2012年

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