ユニークな上流階級の人達のおかしな日常を垣間見る「レディ・ギネヴィア」(名香智子)
仕事も恋愛もがんばりたい!嫌味な上司から助けてくれた同僚にドキドキ…そんな身近な話もいいけれど、せっかく漫画なんだからもっともっと知らない世界の話も読んでみたくない?例えば遠い異国の社交界の貴族様の生活とか覗いてみたくない?
名香智子はそんな希望を叶えてくれる一流の少女漫画家です。代表作は「シャルトル公爵の愉しみ」「マダム・ジョーカー」など。
「レディ・ギネヴィア」が連載していた80年代は、外国を舞台とした漫画もまだ多く、各々に人気を博していましたが、それらの中でも極めて異彩を放っていたのが名香智子氏の作品。
彼女の作品には、ヨーロッパの公爵や本物の貴婦人たちが繰り広げる上流階級のおかしな人間模様が、エスプリを効かせてユーモアたっぷりに描かれています。一般庶民の感覚とは違う浮世離れした金持ちたちがあーだこーだやっているのは、共感を楽しむというよりは、舞台劇を見ているようで面白い。
歴史モノみたいに重苦しくはなく、キャンディキャンディみたいに少女趣味でもない、ビターだけど軽い口当たりのショコラ。
登場人物たちは自己中なやつばかりなのに、この絶妙の口当たりのおかげで彼女の作品(およびキャラクター)は読者に愛され続けているのではないでしょうか。
絶世の美女ギネヴィアは、馬にしか興味のない変人。人間の恋には興味がないが、馬の配合は大好き。
常に美女に囲まれているモテモテ男のリアンダの唯一の弱点はギネヴィア。いろいろあって結婚することになった2人だが、結婚生活はすれ違いばかりで…?
プレイボーイのリアンダは、ギネヴィアにはメロメロ。人間に興味がないギネヴィアも、リアンダだけは馬とは別次元で好きらしい。
でもリアンダは、ギネヴィアの次に最も愛している女性ユーリエのことも忘れられない。
一方ギネヴィアも、結婚後も馬面の男の子種を欲しがったりしては、リアンダをやきもきさせたりする。
とにかくこの人たちときたら、結婚してても浮気はするは、恋はするは、とにかく自由人。
すわ愛憎入り乱れたメロドラマかと思いきや、彼らの生活は終始軽いノリで、日本の庶民から見れば「あこがれ」のはずのイギリス貴族の生活のはずが、なんだかおかしい…。でもその常識はずれさが小気味いい。
それにしても、いくら本命がギネヴィアとはいえ、結婚後も女遊びをやめようともせず、嫁がかまってくれないというお子様な理由で長男を冷遇し、元カノのユーリエが忘れられないリアンダは、現代の日本の主婦から見るとなかなかのクズっぷり…。(そもそも馴れ初めからしてひどい)
でも、ギネヴィアは、人並みに嫉妬したりこっそり涙を流すこともあるけれど、リアンダをなにひとつ責めずにちゃんと夫のすべてを受け容れているんだよね。貴婦人の懐の深さたるや恐るべし。
憎めないキャラクター達といい、予想ができないオチといい、色あせない面白さ。そして何より美しくて華やかな絵。やっぱり少女漫画はこうでなくちゃ。