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大人の少女漫画好きのマンガ評

恋のはじまりの高揚感が溢れ出る「きょうは会社休みます。」(藤村真理)

うひゃー。この漫画をなんといったらいいのか…大人女性漫画の皮を被った完全なる少女漫画いや乙女漫画だ。

この漫画の乙女度は昭和のそれから全く変わらない、とりたててとりえもない平凡で地味目の女の子が、ある日突然かっこよくて性格も男前な男性に好意を持たれるという点に集約されます。

そしてその王道ストーリーをさらっと書き上げているのは、さすが藤村真理先生。ベテランの技。随所に少女漫画好きの胸をつらぬく胸キュンポイントが転がっています。いやいや面白い。

恋愛というのは本当に不思議なもので、恋なんてしなくても人は生きていけるのに、天地がひっくりかえってしまうくらい人生に影響力を持つのも恋。

誰にでもできるもので、それでいて世界が一変するくらいパワーがある。付き合う相手ひとつで、未来という扉の向こうはバラ色の絨毯にもなれば泥の沼地にもなる。

「きょう会社やすみます。」のヒロインも、恋愛で人生の全てが変わった一人。年下の彼氏ができることで、33年間彼氏なしで平凡に生きてきた彼女の生活は大きく変わる。

恋をした、それだけで地味だった彼女の人生は、甘い甘い綿菓子のようなピンク色にそまってしまう。恋愛に免疫がなく人生を生きてきた人ほど、「恋」の影響力は大きい。

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恋をする前はものすごく地味だった花笑
藤村真理『きょうは会社休みます。』1巻(集英社)より

彼氏いない歴=年齢=32歳のOL花笑。33歳の誕生日に、酒の勢いで会社のアルバイト・大学生の田之倉と一夜を共にしてしまう。その後も付き合うことになった2人。元・高齢処女とイケメン大学生の恋が始まって…。

ヒロインは、30代にして経験無しの処女という、今やヤング女性漫画誌では定番となり果ててしまった設定(この設定はそんなに需要があるのか?)そのヒロインが、早々に処女を捨て、大学生のイケメンくんとお付き合いをすることから話が始まります。

実家暮らしで仕事も刺激のない一般職というアラサーOLに、突然舞い込んできた12歳年下の男の子との夢のような恋愛。遅れてきた春に対して、ヒロインが周りの目も気にせず、恋にのめり込んでいく様子がもう痛々しいまでに伝わってきます。

急にコンタクトにして髪型を変えてみたり、無理して彼に喧嘩をけしかけてみたり、あげく初お泊りのあとは会社を休んでしまう始末。こういう漫画にはよく見かける毒舌系友人ポストがいないためか、花笑の暴走は加速しまくり。

たしかに、初めて付き合った相手との恋愛って何もかもが全然違う。男も女も老いも若きもただ「恋する」と「付き合う」っていうのは全然違う。毎日相手のことばかり考えて、自分の中から幸せという名のおかしな成分が溢れ出ているようなハイな気分。周りから見ると空回り全開なんだけど、ど真ん中にいるときはまるで気づかない。

恋は人を変える。特に、今までろくに恋愛をしてこなかったような人は、初めて付き合うという特別な行為に身もココロも恋に犯されてしまう。そんな恋のはじまりの高揚感を、恋愛初心者の花笑は見事に体現している。

近年のアラサー漫画はより読者に近いリアルな像を描いていて、それはそれで面白いですが、こんな純粋な少女のようなドキドキ感を、高校生ではなく大人として楽しめるのはなかなかない。なんていうか、きょう日ここまでストレートに少女漫画なのもめずらしいです。

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恋が止まらーないー♪
藤村真理『きょうは会社休みます。』2巻(集英社)より

もちろん、この漫画の欠点として、話がうますぎるというところには突っ込まざるを得ません。
まず田之倉くんが完璧すぎる。若くてかっこよくて12歳上の彼女のことを一途に思ってくれて誠実で。在学中から株もやっていて卒業後も将来有望で…って、花笑の最上級の幸福感を読者も擬似的に感じるために田之倉くんの存在は必要不可欠とはいえ、ちょっと出来すぎて気持ち悪い。

そしてその完璧な田之倉くんが花笑に好感を持つ理由が、何にでも素直に反応するところと真面目に仕事をするところだったりするところが、いまいち説得力にかける。花笑に限らずそういう女子は他にもいるはずなのに、なぜ主人公だけ特別な目で見られるのか。(あと、職場でお茶に出すケーキを人数分きっちり定規で測っていたというエピソードとか、正直古臭い…)

そもそも、花笑は年の差を気にしてばかりいるけど、気にするところはそこじゃないのでは。33歳で誰ともつきあったことのない処女、一方でコミュ力に長けて男女問わず人気者な大学生男子。この壁の差は厚い。分厚すぎる。そのへんの経験値の差をもっと書くべきでは。

と、まあ、こんなうまい話あるわけない!と思いたくもなりますが、こと恋愛に関しては世の中にはドラマ顔負けのホントの恋愛がごまんと溢れているもの。だからもしかしたら、こんな漫画みたいな恋愛も本当にある…のかもしれない。いいなあ、花笑…。

きょうは会社休みます。(藤村 真理)

連載雑誌:Cocohana(集英社) 発表年:2012年

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