田舎を舞台にした少女漫画というお題で一番に頭に思い浮かぶのは、やはりくらもちふさこの「天然コケッコー」ではないだろうか。
生徒数が小中学校合わせて7人しかいない小さな村に、大都会東京から転校生がやってくる。美人だけどドぎつい方言をしゃべる”そよ”と、東京からきたちょっと意地の悪い”大沢くん”を中心に、田舎のリアルな生活風景を描いた傑作です。都会に対するあこがれやコンプレックスを大沢くんに感じてしまう、そよの自然体な感情に引き込まれる。
田舎ならではのささいなエピソードに時に笑えて時に共感して、田舎のいいところも悪いところも存分に味わえる。
両親が離婚した杏は12歳で東京から母の実家がある島根へ。近所に住む大悟らと仲良くなり、田舎の生活にも順応してくる。母の自死をきっかけに、杏と大悟には特別な絆が生まれ、やがて成長した二人は恋人同士になるが杏は父親の住む東京に行くことになる。
「砂時計」はドラマ化もされた芦原妃名子の代表作。一人の少女の恋愛と人生を、小学生から大人までじっくりと追っていく読み応えのあるストーリーになっています。成長しても母の自殺のトラウマから逃れられない杏と好きな子をなんとか救おうとする大悟。不器用だけど包容力があって頼もしい大悟は瀬戸内の自然そのもの。
田舎町にくすぶっている空気の描写が生々しい、思春期のナイフのようなむき出しの情熱をジョージ朝倉が描いた「溺れるナイフ」。その荒々しくも圧倒的な迫力は連載中多くの女性を夢中にさせました。
東京で雑誌モデルをしていた夏芽は、親の都合で田舎町に引っ越すことに。都会っ子の夏芽はショックを受けるが、その田舎で異彩を放つ少年・航一朗(コウ)と出会い、自分以上の強烈な存在感に運命的に惹かれていく。
航一朗は田舎の山に住む「神」さんで、対する芸能人の夏芽は都会の「ミューズ」。閉塞的な田舎を舞台に、リピドーに溢れた少年少女達を情感たっぷりに描いた衝撃作です。
田舎ののんびりとした空気に触れたいなら断然おすすめなのが、この「雨無村役場産業課兼観光係」。作者は、「町でうわさの天狗の子」でも有名な岩本ナオ。
東京の大学を卒業し、地元の雨無村に戻ってきた銀一郎。村の役場に就職した銀一郎は、友人や家族の力を借りて村おこしをすることになる。社会人1年目の銀一郎が初の大仕事となる「村おこし」の成功を目指して成長していく。
ユニークなおっちゃんおばちゃんや、再開した幼馴染たちとのほんのりした恋ばな、押し付け感がない岩本ナオの独特の作風に酔いしれましょう。
続いては、「のだめカンタービレ」の二ノ宮知子が描く異色の農家ラブコメディ。
舞台は埼玉県秩父の農村。農家の跡継ぎ息子・誠に一目ぼれした和子は、押し掛け女房のごとく秩父へ通いつめ農業を手伝うことに。誠への恋心を胸に奮闘する和子だが、なれない農作業にドジばかりで。
ポジティブで天然な和子が巻き起こす田舎の大騒動、作者のセンスが爆発の爆笑コメディ。のだめ好きなら文句なしにおすすめ!
妖怪が見える特異体質の男子高校生・夏目がニャンコ先生(妖怪)とともに、繰り広げる妖怪ファンタジー「夏目友人帳」。
ある日祖母の遺品から出てきた「友人帳」。それは祖母が妖怪たちから奪った名前を集めた契約書だった。夏目は祖母に名を奪われた妖怪たちにその名を返すことにするが…。
自然あふれる田舎といえば、妖怪ネタと相性がとても良いですよね。なぜって妖怪も自然も古来からただそこに在るものだから。本作の舞台のモデルも熊本県の田舎町とされています。
独特の空気を感じたいなら「坂道のアポロン」もおすすめ。
時代は1966年。父親の仕事の都合で、横須賀から九州へ転校してきた高校生の薫。同級生の中で“札付きのワル”と恐れられる千太郎と出会い、彼に教えてもらった「ジャズ」の魅力が薫の人生を変えていく。
輸入されたアメリカ文化が漂う日本の港町、長崎。当時の日本は高度経済成長期の真っ只中、日本中が勢いがあった時代に南蛮渡来の音楽に夢中になった高校生達の青春群像劇の傑作です。
ちょっと番外編で。人気漫画「君に届け」の舞台は北海道。早い初雪、ブーツで登校する主人公たち、雪かきが日課のヒーロー、真冬のバレンタイン、卒業後の進路は地元か札幌か、北海道の日常がリアルに伝わってきます。北国あるある話も多い。
本作に限らず北海道が舞台となっている少女漫画は割と多く見られます。寒さに負けず青春を送る高校生たちにエールを送りたい!