こんな少女漫画がありました
少年漫画ではジャンプが黄金期であったのと同時期、少女漫画も同じく集英社の、250万乙女が読んでいたとされている「りぼん」が絶世期を迎えていた。
このりぼん世代に圧倒的な人気を誇るのが、池野恋の「ときめきトゥナイト」。魔界から来た吸血鬼少女蘭世の真壁くんへの一途な片思いを描いた1部から、後にヒロインを変えて全30巻まで続く長期連載の大作である。本作品のヒーロー真壁くんは一部の年の女性には根強い人気を持つ。
それに続くのが、乙女チック路線の本田恵子の「月の夜 星の朝」やイギリスを舞台にファンタジーと可愛らしい絵柄でヒットした萩岩睦美の「銀曜日のおとぎばなし」、さらに80年代後半には、250万乙女のバイブルと呼ばれた「星の瞳のシルエット」(柊あおい)や、水沢めぐみの「ポニーテール白書」がヒット、さらにその後は吉住渉、矢沢あいら90年代のりぼんを支える漫画家たちが続々と現れてきた。国民的アニメとなった「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ)や「お父さんは心配症」(岡田あーみん)といったカリスマ的なギャグ漫画も生まれ、まさにりぼんは絶頂期にあった。
お父さんは心配症
りぼんのライバル誌なかよしでは、ジブリで映画化された高橋千鶴「コクリコ坂から」やいがらしゆみこの「ティムティムサーカス」等が連載、また、たかなししずえの「おはようスパンク」もアニメ化された人気作品だ。
80年代後半には「あこがれ冒険者」「なな色マジック」と安定してヒットを飛ばしていたあさぎり夕がその看板を背負い、早すぎた萌えと言われる「きんぎょ注意報」(猫部ねこ)、双子の姉妹が超能力で活躍する「ミラクル☆ガールズ」(秋元奈美)や、「レピッシュ!」「月下美人」のひうらさとる等、講談社らしく安定した実力を持つ作家を揃えていた。
小学館はぴょんぴょんという低学年向けの雑誌を出版していたが、低迷のためちゃおに吸収合併。しかし、ぴょんぴょんには当時小学生の間で爆発的に大ヒットしたビックリマンシールを題材とした「愛の戦士ヘッドロココ」、「光のパンジー」(奥村 真理子)「どろろんぱ」(室山まゆみ)等面白味のある作品も多くみられた。
一方、少女コミック(少コミ)では看板作家の篠原千絵が怪奇サスペンス風の独自路線を定着。代表作「闇のパープルアイ」「海の闇月の影」等、本格サスペンスに少女漫画を上手く融合させた作品で人気を誇っていた。また、イケメンに定評のある惣領冬実の「ボーイフレンド」も人気。80年代後半には、すぎ恵美子・北川みゆき・渡瀬悠宇らチョイH路線の方向性ができはじめる。
白泉社の80年代前半の代表作とえいば、男子寮ものの金字塔「ここはグリーンウッド」(那州雪絵)やNYでのお洒落な恋愛を描いた「CIPHER」(成田美名子)、また、革新的ギャグ漫画「パタリロ」(魔夜峰央)、獣医学生と動物の日常を描いた「動物のお医者さん」(佐々木倫子)、河原泉作品等、感動系からギャグまで恋愛に限らないテーマで幅広い読者の支持層を得た。特に「動物のお医者さん」は獣医学部の志望率増加、ハスキー犬ブームという社会現象を作り出す程の人気ぶり。また、前世からの縁を持つ男女を描いた「ぼくの地球を守って」(日渡早紀)も、世界観に没頭した少女たちが現実でも前世の仲間を集め出し、大きな影響を社会に与えた。
さらに異色なのが、別コミである。ニューヨークを舞台に金髪碧眼頭脳明晰のアッシュが日本人の英二と「バナナ・フィッシュ」の謎を探る「BANANA FISH」(吉田秋生)は、恋愛を中心とした少女漫画を一蹴した世界観で「女らしさ」を完全に排除しながらも女性に絶大な支持を得た傑作である。
少女漫画っぽくない作品といえば、同じく別コミの「BASARA」(田村由美)。殺された兄の代わりに日本国の革命を成し遂げようとする少女更紗の運命に立ち向かう姿を迫力の画力で描き、少女漫画界を代表するヒット作となった。少女らしくない骨太なストーリーの反面、正体を知らずに兄の仇と愛し合ってしまい、いつバレるかわからないハラハラドキドキの切ない恋愛要素も。
マーガレット系では、くらもちふさこは相変わらずハイセンス。「いろはにこんぺいと」や「アンコールが3回」ではその構成力の高さを見せつけた。また、暴走族に入った中学生の孤独な思春期の葛藤を描いた「ホットロード」(紡木たく)は、まさに80年代という時代を反映した一冊である。
クールな入江くんに熱烈アピールをするヒロインのラブな姿が印象的な「イタズラなKISS」(多田かおる)も人気を博したが、長期連載の後、作者急逝のため未完の大作となってしまっている。
世間でも「漫画好き」が市民権を得はじめ、漫画があって当たり前の時代を迎えたこの世代は、漫画とともに育ち漫画の恩恵をいち早く受けた世代である。
舞台は外国から日本へ、そして学校へと、より読者のリアルへ近づけたものとなっていき、「学園もの」が主流となり、より庶民的で身近なテーマが多くなってきた。