こんな少女漫画がありました
この時代の少女の思い出の作品と言えば、やはりなかよしで連載していた竹内直子の「美少女戦士セーラームーン」ではないだろうか。圧倒的な知名度を誇る国民的アニメとなった作品だ。
他にも「神風怪盗ジャンヌ」(種村有菜)や「カードキャプターさくら」(CLAMP)、「少女革命ウテナ」(さいとうちほ)、「姫ちゃんのリボン」(水沢めぐみ)、「魔法騎士レイアース」(CLAMP)等、変身少女物・アニメタイアップが次々とヒットした時期だった。
りぼんでは、引き続きベテラン作家たちの活躍が目覚ましい。
お互いの両親が取り替え婚をすることで義理の兄妹になってしまう「ママレード・ボーイ」(吉住渉)や、小学生離れした美少女と年上の中学生の恋愛を描く「ベイビィ★LOVE」(椎名あゆみ)らが人気を集め、可愛らしい絵柄で子供社会の闇も取り扱った新人作家・小花美穂の「こどものおもちゃ」らが続いた。
また、「赤ずきんチャチャ」(彩花みん)は、メルヘンな絵と毒のあるギャグのギャップで大人もハマらせ、アニメ化も受けて大ヒットした。
矢沢あいは、学園青春漫画の金字塔「天使なんかじゃない」の連載を経て、服飾学校に通うデザイナーの卵たちが青春する「ご近所物語」でファッショナブルな画風を確立、その後現代少女漫画のキラーとなる「NANA」の連載を始める。本作は2人のナナという名前の少女の出会いから始まり、ビバヒルのごとくいろんな男女が入り乱れる息もつかせぬ展開と、おしゃれな作風に切ない描写が話題を呼び、映画も大ヒット。一時期は全ての女子がNANAを読んでいた、という嘘のようなホントのような話もある。
少コミでは、90年代前半、渡瀬悠宇のファンタジー「ふしぎ遊戯」が大ヒット。四神天地書という本の世界へ入り、朱雀七星士を集めるヒロインの冒険を描いた。
90年代後半にはベテラン作家篠原千絵による「天は赤い河のほとり」の連載が始まる。女子高生が古代メソポタミアにタイムスリップして王子と恋におち、現代の知恵でイシュタルの女神となっていく様は「王家の紋章」にインスパイアされたというが、確かな筆力で作者ならではの世界観を確立。
また、同時期、一般少女がスター歌手と恋に落ちる「快感フレーズ」(新條まゆ)が大人気となり、これが少コミの過激な性描写を一気に加速させる。
90年代頭のちゃおでは、少女漫画版中学生日記とされる「水色時代」(やぶうち優)がヒット。中学生の少女の思春期をみずみずしく描いた。また、ちゃおのベテラン赤石路代の「P.A. プライベートアクトレス」がドラマ化、りぼんやなかよしには及ばないものの小学生をターゲットに定め、健全で少女らしい連載を揃えていく。
一方、同じく小学館の別コミでは、渡辺多恵子のハートフルコメディ「はじめちゃんが一番」が終了し、新たに新撰組をテーマにした「風光る」をスタート。家庭愛に定評のある渡辺多恵子が、女性ならではの新たな新撰組像を生み出した。
女子高生の御用達とされた別冊マーガレット、通称別マでは、合コンで知り合った高田くんと初めてのカップル作業を積み重ねる「恋愛カタログ」(永田正実)や、飼い犬マメタロウの目線で飼い主郁子と彼氏の秋吉の恋愛を見守る「まっすぐにいこう。」、片思いから一歩進んだ、カップルになったその後をテーマにした作品も多く楽しめた。また、「I LOVE HER」「愛があればいーのだ」のいくえみ綾、「先生!」の河原和音等、別マを代表する作家も台頭してくる。
さらに、90年代のマーガレットの代表作と言えば、何はなくても「花より男子」(神尾葉子)である。
F4と呼ばれるブルジョワイケメン男子4人組と雑草少女つくしの学園ストーリーは、ドラマ・映画も大ヒット。「道明寺」か「花沢類」か…つくしの美味しいポジションに憧れた女子は多いはず。
花とゆめ・LaLaでは、小学生の兄拓也と赤ちゃんの弟実の兄弟愛を描いた「赤ちゃんと僕」(羅川真里茂)や、見栄っ張り女子高生の学園青春もの「彼氏彼女の事情」(津田雅美)、動物憑きの体質を持つファンタジー「フルーツバスケット」(高屋奈月)etcと、相変わらず幅広いテーマで楽しませてくれる作品が多かった。
90年代は女性が働くのも当たり前となった時代、ただしキャリア・ウーマンと寿退社をする女性の両方が混在した時代だ。女性たちは、これまでの時代になかったキャリアと結婚の取捨選択に悩むようになる。
そして働く女性の漫画と言えば、槙村さとるの独壇場だ。堅実なヒロイン(OL)と自由奔放な母親(女優)の恋と仕事を描いた代表作「イマジン」をはじめ、「美味しい関係」「Real Clothes」(これは2000年代)、誰もが経験する働く女性の悩みをリアルに描いた世界観は現代女性に共感できるものが多く、次々とドラマ化されお茶の間でも親しまれるようになる。
一方、庶民派OLの人には「クローバー」(稚野鳥子)がおすすめ。エリート上司に交際を申し込まれる普通OLのヒロイン、こんなオフィスラブをしてみたい!と思えるうらやましさである。
また、「ベル・エポック」(逢坂みえこ)は、30代独身の芸能雑誌編集者のヒロインの仕事・恋・出産について、あたたかい視線で描いている。30代おひとり様の肩身が狭かった90年代に、仕事と結婚に悩むヒロインの姿は、多くの女性の共感を得た。
安野モヨコはそれまでの少女漫画を抜け切れない作品から「ハッピーマニア」で大化け。男にだらしなく仕事もダメ、毎日をひたすらに恋愛に生きる重田佳代子「シゲカヨ」の姿は、全く新しいヒロイン像として衝撃を与えた。安野モヨコの少し突き放した視線で描かれる圧倒的なリアルさと、それを上手くオブラートに包んだギャグセンスの高さは、女性だけでなく男性からも支持を得ている。
またハッピーマニアをブレイクさせた「FEEL YOUNG」は、他にも岡崎京子・桜沢エリカ・内田春菊・南Q太らのそうそうたる豪華連載陣を揃え、ファッションやセックス等をメインにしたガールズ漫画の確固たる地位を確立していった。
「ギャルズ」「ピーチガール」等例をあげればきりがないが、ギャル世代まっただ中、内気でおとなしい昭和ヒロインは影をひそめ、制服を可愛く着こなし恋愛だけでなくおしゃれにも敏感なヒロインが目立ってきた。
また、集英社の「Cookie」や講談社の「Kiss」等、少女と大人の女性の間の層をターゲットにした雑誌が続々と刊行される。
例えば「Cookie」ではりぼんで活躍していた作家達が、当時より一世代上向けの話を描いている。これにより、一度りぼんを卒業した女性等が再び少女漫画を読み始めるようになった。