日本で一番有名な「男装の麗人」と言えば、間違いなく「ベルサイユのばら」のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェでしょう。
男子を待望していたオスカルの父は、6番目にまたもや生まれた女の子に失望、泣き声が元気という理由で無理やり男として育てることにする。元々優れた容姿を持ち、また軍人として規律の中ですくすくと育てられた彼女は、女だと知られながら周りからの好感度はすごぶる高い。皆がオスカルにあこがれるが、彼女自身は人には言えない燃えるような初恋をすることになる。
軍人としての誠実さ、熱く優しい性格、そして美しい見た目に、少女のような純粋さ、最後は革命に命をかける勇気と、何をとっても完璧なオスカルが女性の憧れとなるのは至極当然・自明の理なのだ。
大金持ちばかりが通う桜蘭高校に特別奨学生として入学した庶民の藤岡ハルヒ。つつましやかに暮らしたかったのに、入学早々借金の方に「ホスト部」といういかがわしい部のメンバーにさせられる。ホスト部とは、お嬢様の女生徒を部活メンバーがもてなす金持ちの道楽活動であり、学園を代表する金持ちイケメン6人が在籍している色モノ部活。
ハルヒは「ホスト部」在籍という立場から他生徒には性別をバラすことは禁止ということで、やむをえなく普段も男子のふりをすることに。
何事にも無関心・ものぐさ、常に冷めたヒロインのキャラと、対照的に暑苦しいホスト部の面々。テンションが高いギャグが満載の、上流階級の学園生活を描いた爆笑コメディ。
男装時は女にもてて、女に戻るとすこぶるかわいい、という鉄板のお約束も。
この作品が「イケメンパラダイス」の名でドラマ化されたのも、もう7年も前のこと。リメイクもされた人気ドラマでしたね。もちろんその原作も、単行本の累計売上げ1500万部を超えるヒット作。
アメリカからの帰国子女・瑞稀は、憧れのハイジャンプの選手佐野泉に会いたい一心で、佐野の通う私立の男子高校・桜咲(おうさか)学園に、男装して男子として転入する。しかし、佐野はハイジャンをやめていて…。
逆ハーレムの決定版・男子校&男子寮生活の中に女子が一人。というド定番とそのツボを確実に抑えた作品。
男装する理由が若干薄い気もするが、文化祭の女装や着替えばれシーン、ヒロインの正体を知らずに惚れてしまいホモかと悩んでしまう友人の同級生等、「お約束」が盛りだくさん。まさに少女の夢の学園ラブコメディに仕上がっています。
「ベルばら」の作者池田理代子からもう一作品をご紹介。
ヒロイン・ユリウスは女性であることを隠して、男子校に入学。この学校には「オルフェウスの窓」という古い窓があり、男性はその窓から見た女性と必ず恋に落ちるが悲劇に終わってしまう、という言い伝えがあった。ユリウスは、その窓でクラウスとイザークという2人の男性と運命的な出会いをする。ユリウスが女だと知らない2人は純粋に友情を育もうとするが、言い伝え通り、激しくも哀しい悲劇が待っている。
学園生活→ロシア革命と話は大きく動き、大変ドラマチックで読み応えのある作品になっています。
ユリウスが男装をしている理由は父親への復讐であり、いろいろと重いものを背負っているためか、オスカルと違って内面は割と女性的。
少女漫画らしい少女漫画を描く作家、さいとうちほ。特にこの「花冠のマドンナ」の乙女度はかなり高い。
16世紀のイタリア。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「花冠のマドンナ」という一枚の絵に、イタリア覇権の証「エメラルドの獅子」という宝剣の秘密が隠されているという。
小さな町に住む美少女レオノーラは、銀の髪にエメラルド色の瞳を持ち、その絵の女性とそっくりの容貌を持っていた。やがてイタリアの覇権争いに飲まれそうになった彼女は、銀の髪を切り黒に染めて男装をし、自力で絵の秘密を探る旅に出る。
ダ・ヴィンチやラファエロ、チェーザレ・ボルジア、ルクレツィア等、イタリアの歴史好きにはたまらない登場人物が数多く出てきます。
白馬の王子様ファルコと野心に溢れた参謀家チェーザレ、2人の男が美少女レオノーラを巡っている中で、当の本人は黒髪の少年レオと姿を変えてたくましく生きているのが面白い。
タタラと更紗の双子の兄妹が生まれた時、村の予言者は言った「この子は日本の救世主になる」と。
予言通り救世主としてたくましく成長し、皆の期待を背負っていたタタラ。しかしある日突然村が襲われ、タタラは日本の支配者の一人「赤の王」に殺される。村の生き残りを守るため、更紗はタタラの名前を名乗り、以後男装して皆に性別を偽ったまま、兄「タタラ」として旅を続けることになる。
田村由美の大ヒット作「BASARA」は男として、双子の兄の身代わりとして生きることを選んだ少女が、迷い傷つきながらも、人間として成長していくストーリー。
旅の途中で温泉で知り合った、謎の旅人、朱里。彼の前では普通の女の子「更紗」でいれるタタラだが、朱里こそは兄の仇・赤の王だった。お互いの正体を知らないまま、燃え上がる2人の恋は見逃せません。
舞台は明治。小間物問屋の娘・志乃は跡取り息子として、立派な男子に育てられてきた。しかし、父が後妻をもらい弟が生まれたことから状況が一変、女に戻って嫁に行ってくれと言われる。完璧な男子として育てられた志乃は怒り、なんとかして結婚を阻止しようとする。
そして、ひょんなことからアメリカからやってきた開拓使ダニーと出会い、まだ見ぬ異国への夢を膨らませ、とうとう密航を企て日本を脱出しようとする。
実際に志乃が男装しているシーンはほとんどないのですが、親の言いなりに男性として育てられまた親の言うとおりに嫁に行けと言われる、当時の日本女性の不自由さに憤慨した志乃が、手に職を持ち、N.Yへ行く夢をかなえ、ついには明治の世で国際結婚を成功させる、これがロマンと言わずして何なのか。この行動力はやはり男に育てられたからなのか、女性のような耐えて偲ぶという面が志乃には一切ありません。
現代女性にこそ読んで欲しい、たくましいヒロインの生きざまを描いた大和和紀の名作です。
性別を偽って新選組に入隊した少女セイの幕末青春グラフィティ。
町娘の富永セイは、長州の反幕派の浪人により父と兄を殺される。兄の意志を継ぐため、また父と兄の敵を討つため、彼女は性別を偽り男として、壬生浪士組(のちの新撰組)に神谷清三郎と名乗り入隊する。沖田総司、近藤勇、土方歳三らとともに、彼女の新たな運命が動き出していく。
女の子なのに月代までしているセイのがんばりが、とにかくいじらしい。沖田総司ら魅力的な新選組の面々と、ひたむきなまっすぐ少女セイとのあたたかな交流はホームコメディのようでありながら、誰もが知っている幕末の悲劇を考えると悲しくもあり。
紹介した他作品と違って女だとばれたら即死だろう、セイの命がけの決心に強く心を揺さぶられます。
毎日が刺激がなくてつまらない女子高生ミリ。男だったら毎日楽しく生きられるのに、なんて思っている。ひょんなことから生き別れになっていた双子の兄(女装癖)モモと一緒に、ボロい一軒家で暮らすことになるが、そこには先客が。ヒカル・ヒデキ・カツヤの3人組。彼らは若手モデルで、勝手に住み着いていたのだ。
ミリはヒカルらに影響されメンズモデルとしてデビューし、一躍有名になっていく。更に、兄・モモも女性モデルとしてデビューし、平凡だった生活が目まぐるしく生まれ変わる。
安野モヨコらしくおしゃれとギャグをふんだんに詰め込んだ、メリーゴーランドの世界。とにかくセンスが抜群!男装好きのミリより、身も心も女のモモの方に共感度高し?
女子高生の遠山りょうは、修学旅行先で弁慶と名乗る男と出会う。自分が遠山家の実子ではなく、実は源義経(牛若丸)だったことを知った彼女は、弁慶とともに平安時代へと戻る。
かの義経が女性だったら…バージョン。元女子高生・義経と長髪イケメン弁慶とのラブストーリーです。
ポニーテールのりょう(義経)もかわいらしいし、なんといっても献身的に義経を守る弁慶の男っぷりがたまらない。
タイムスリップ+男女逆転物は今では割とよくみかけるようになったけど、史実を上手く少女漫画風に調理して楽しませてくれる良作かと。